リスク社会の科学教育―科学を統治する市民を育てるー

このブログは、大学で科学教育を担当している筆者(荻原彰)が、現代の巨大な科学技術を市民が適切に統治するため、科学教育はどうあるべきかを考えていくブログです

教師の役割転換 公共圏のコーディネーターとしての教師の役割とそれを支えるしくみ 2

分量がごく少ないですが,キリがいいので教師を支えるしくみが3つの段階からなることの最初の部分を述べておきます

 

そのしくみは次の3段階からなる.

第一段階は論点整理の段階である.媒介の専門家(現在,このように認知された専門家が存在するわけではないが,科学論研究者などの科学をメタ的に分析する社会科学者,理科教育学の研究者などを想定している)が組織する専門家(たとえば問題が出生前診断である場合には出生前診断を推進したり批判する研究者やNPO,政策担当者等,対立するオルタナティブの主張を背景とした専門家が含まれていることが必要)相互の討論の場が設定される.ここで特定のトランスサイエンス問題について教育実践の場に提示する複数のオルタナティブが提示され,それらにかかわる論点整理が行われる.

第2段階はカリキュラム作成の段階である.第一段階の論点整理を受けて媒介の専門家と教師や教育学者(教育工学や教育方法論などを含む広い意味での教育学)の討論の場が設定される.ここでは教育実践の参考となるモデル的なカリキュラムの作成(モデル的と的をつけたのは,あくまでも参考であって教育実践を拘束することを意図していないという意味を含ませている)が行われる.

第3段階は教育実践の場である.学習者は資料等からトランスサイエンス問題について学ぶとともに,教師のコーディネートのもとに学習者相互及び学習者とトランスサイエンス問題のステークホルダー(専門家,問題に関与する市民等)との間で討論を行い,それを通して議論のメタ科学的側面に注意を向け,各人の依拠する価値観や支持するオルタナティブを(暫定的に)選択する.

以下,各段階について具体的に述べていく.