2020-01-01から1年間の記事一覧
核物理学者のアルヴィン・ワインバーグは「Science and Trans-Science」(1)という論文の中で「科学に問うことはできるが科学によって答えることができない問題」を「Trans-Scientific Questions」(トランスサイエンス的問題)と呼び、次のような例をあげた…
前章で現代の科学技術の抱える様々な問題を見てきた。共通して言えることは、科学技術は社会に深く組み込まれており、同時に社会を根底から支える存在であるということだ。別の言い方をすれば科学技術は社会を一変させるポテンシャルを持つ存在であり、同時…
1960年代の日本は水俣の有機水銀汚染、四日市の大気汚染など多数の死者がでる重大な公害が相次いで起こった。近代化に伴うあらゆる公害が見られる「公害先進国」だったのである。当時の日本企業は高度経済成長に伴い、設備投資は年率20%増以上と拡張に拡張…
ベックは現代社会の分析に有用な様々な概念を提示したが、そのうちの一つがサブ政治という概念である(1)。近代社会において経済や科学技術が民主的統制の範囲外となり、政治が科学技術やグローバル経済にかかわる諸セクターが生み出すリスクをコントロー…
大きな組織には一種の慣性(現在の運動状態を続けようとする性質)がある。慣性はとりわけ巨大な官僚組織、つまり国や都道府県といった行政組織において著しい。科学技術政策もその例外ではない。というよりも、長期にわたる投資や安定した制度が必要である…
丸山真男は「軍国支配者の精神形態」の中で、極東軍事裁判における軍幹部、官僚、政治家の証言を分析し、指導者たちが、それぞれのセクターの利害を背景としながら、妥協とあいまいな集団的意思決定を行い、誰一人として責任意識を持たないまま、流れに飲ま…
ここでは、原子力を例に科学技術と社会の関係を不健全なものにしている先送りの論理と技術楽観論について述べてみたい。 この節を執筆する少し前に原子力規制委員会が青森県六ヵ所村の再処理工場の安全審査を終了し、この夏(2020年)にも認可する方針であるこ…
スローターは大学をめぐる研究環境の変化が大学教員の意識や大学内の権力構造に与えた影響を研究し、1980年代以降、外部資金獲得が大学及び大学教員を動かす主要な動因となってきたことを指摘し、「大学および大学教員の,外部資金を獲得しようとする市場努…
科学史研究者の古川安は科学の産業化について次のように述べている。 ―1920年ころから科学は急速に産業の「奴婢」になったというアメリカの経営史家ノーブルの指摘は誇張はあるものの、ポイントをついている。時期のずれこそあれ、こうした傾向はどの科学技…
近代細菌学の基礎を築いたことで知られるルイ・パスツールは「科学には国境はないが、科学者には祖国がある」と語ったという。この言葉は、戦争にまで至った当時のフランスとプロイセン(現ドイツ)の対立を反映している。彼は好戦的であったというわけでは…
日本が近代大学制度を導入した時、ヨーロッパでは、すでに自然哲学からの自然科学の専門分化が進行し、工学や農学も学問としての専門性を確立しはじめていた。日本の大学は基本的に、その当時のヨーロッパの学問の枠組みをそのまま日本に移植したものであっ…
マイケル・ファラデーは、電磁場の基礎理論を確立し、電動機技術の基礎を築いたイギリスの物理学者である。クリスマス・レクチャー「ろうそくの科学」でも知られている。アインシュタインやニュートンと並ぶ科学界の巨人であるが、世俗的名誉には関心がなく…
スチュワート・リチャーズは「科学・哲学・社会」の中で、高速核増殖炉が実現した未来を想定し、「巨大増殖炉計画はプルトニウムの頻繁な輸送を必要とするが、それは偶発的事故とテロリストの攻撃という当然の危険を伴うのである。そのために列車と原子炉用…
「ひび割れたNUCLEAR POWER 雨に溶け風に乗って 受け止めるか 立ち止まるか どこへも隠れる場所はない It’s A NEW STYLE WAR」 浜田省吾 A NEW STYLE WAR ベックの言う「「他者」の終焉」を端的に表した詞ではないだろうか。リスクは地球的規模で遍在してい…
1928年に開発されたフロンは、人体に毒性がなく、不燃性で化学的に安定している理想的な冷媒として、あるいは断熱材、発泡剤、半導体等の洗浄剤として1960年代以降急激に普及した。しかし、1974年にアメリカのローランドがNature誌に提出した論文がきっかけ…
ベックのいうリスク社会とは、富の分配とそれをめぐる争いが社会の中心的課題であった「貧困社会」が「人類の技術生産力と社会福祉国家的な補償と法則がある水準に到達」し、貧困が緩和され、同時に「危険と人間に対する脅威の潜在的可能性が、今までになか…