リスク社会の科学教育―科学を統治する市民を育てるー

このブログは、大学で科学教育を担当している筆者(荻原彰)が、現代の巨大な科学技術を市民が適切に統治するため、科学教育はどうあるべきかを考えていくブログです

トランスサイエンス問題に対する市民の意思決定の質を高めるーはじめに

前章でトランスサイエンス問題について「市民は問題を自分(たち)自身の問題として引き受け、自分(たち)のことは自分(たち)で決めるべきであり、決定について自分(たち)でその責任を引き受けることができるという覚悟と自己信頼を持つことが必要である」と述べた.これはトランスサイエンス問題への社会の対応は専門家や行政(政治)の決定に委ねるのではなく,個々の市民の意思決定の集積として行われること,したがって市民のための教育基盤を増強し,市民の意思決定の質を高める努力が絶えず行われなければならないことを前提としている.ここではそのために必要な教育の諸要素について考えていきたい.