科学技術は何のためにあり、科学者・技術者のミッションは何だろうか? このことについては、科学技術が一つの独立した社会的営為として認識され、科学者・技術者という職業が成立して以来、無数の論考があり、無数の議論がある。ここではその内容自体には立…
(2)市民教育という側面が強調されすぎれば,科学者・技術者を育てることがおろそかになるのではないか。科学教育の重点を市民教育に振り向けることが科学者・技術者の養成に悪影響を与え、結果として科学技術の質の低下、ひいては国際競争力の低下と日本…
(1)科学教育は科学の系統性に沿って基礎(ここでは初歩という意味で使っている)から積み上げる教育ではないのか?科学の系統性を飛び越えて原発だとか遺伝子組み換えのような高度な科学技術の生み出すリスクを扱うことなどできるのか? 確かに科学には一…
まず科学教育の明治以降の歴史を簡単に振り返ることから始めてみよう。よく知られているように第2次世界大戦までの政府の政策の眼目は富国強兵である。富国のためにも強兵のためにも欧米から科学技術を移入して近代軍隊と近代産業を立ち上げ、強化すると共に…
まず科学教育の明治以降の歴史を簡単に振り返ることから始めてみよう。よく知られているように第2次世界大戦までの政府の政策の眼目は富国強兵である。富国のためにも強兵のためにも欧米から科学技術を移入して近代軍隊と近代産業を立ち上げ、強化すると共に…
これまで述べてきたように現在の科学技術と社会の関係は「社会の科学化」.「科学の社会化」というべき状況にある.社会の科学化と科学の社会化は密接な関係を持ちながら進行し,科学技術と社会が分かちがたく結びついて「科学―社会複合体」を形成している.…
2 公正のための介入 脆弱な人々を守る権利はあるのか?余計なお世話ではないのか? 「リスク社会とその特性」の章でも触れたが,ある電力会社の課長と話した経験をもう一度再録するところからこの話をはじめよう. 彼は原子力発電所に反対する人々を大略次…
前章では市民参画の根拠としての「科学技術の政治化」を扱った.筆者はこれを平川秀幸の言う「専門性の民主化」(1)に対応するものとして考えている.平川は「専門性の民主化」を有効に進めるためには「「民主制の専門化」が不可欠である」として「政策 決…
改めて本章冒頭に述べた「民主主義社会においてはすべての市民が、その社会が将来どうあってほしいか、どうあるべきかという社会像の選択に関与する権利と義務を持っている。そして上述のように科学技術は「何が社会にとって良いことなのかという価値観の選…
前節で触れたロックインとは「一定の技術を社会が選択した場合、その技術がその後の社会の技術選択を一定期間選択する」(城山英明)(1)現象である。ロックインの例としてよくあげられるわかりやすい例はタイプライターのキーボードの文字配列であろう。…
前節で科学技術が民主的統制の外側にはみ出していく、つまり脱政治化していくことを取り上げたが、では政治とは何だろうか、様々な定義があろうが、ここでは「学術会議政治学委員会政治学分野の参照基準検討分科会」の大学教育に関する報告(1)中の「政治…
まずは科学技術の進歩の不可避性及びその進歩が善をもたらすという信念について考えてみよう。これまで何回か触れているウルリッヒ・ベックは、経済や科学技術が民主的統制の範囲外となり、政治が科学技術やグローバル経済にかかわる諸セクターが生み出すリ…
社会像の選択 科学技術は、他の様々な社会経済的要素と組み合わされたシステムとして、さらには何が社会にとって良いことなのかという価値観の選択や社会変革へのビジョンとともに社会に実装される。例を見てみよう。 「リスク社会とその特性」という節で、…
ここからは、そっと行う(順応的管理)ことについて考えてみよう。そっと行う(順応的管理)ということは、耳を澄ませることと一対である.事態の進行に対して耳を澄ませる(モニタリング)ことにより、成果や副作用を評価して,計画にフィードバックさせていく…
経済学者のフリードリヒ・ハイエクは、賢明なエリートが社会を俯瞰的に把握し、設計し、指導することができるという前提に立つ設計主義・計画主義を「進歩を続ける理論的知識が、今後あらゆる分野において複雑な相互関係を確証可能な事実へと還元してくれる…
耳を澄ませるために 現場の知に耳を傾ける 野生のシカやウマは群れを作る。その理由の一つは群れを作ることにより、たくさんの目や耳を持つことができ、警戒監視機能が向上することである。そして大きな群れでは小さな群れよりも捕食者検出率は高いとされて…
前節と重複する部分が多いが、この節では社会的判断を行う際の有力な判断基準・行動基準となる予防原則と順応的管理について述べておこう。 リスク論においては「望ましくない事象」を一般にリスクと呼び、リスクの大きさを(望ましくない事象の生起確率)×(…
核物理学者のアルヴィン・ワインバーグは「Science and Trans-Science」(1)という論文の中で「科学に問うことはできるが科学によって答えることができない問題」を「Trans-Scientific Questions」(トランスサイエンス的問題)と呼び、次のような例をあげた…
前章で現代の科学技術の抱える様々な問題を見てきた。共通して言えることは、科学技術は社会に深く組み込まれており、同時に社会を根底から支える存在であるということだ。別の言い方をすれば科学技術は社会を一変させるポテンシャルを持つ存在であり、同時…
1960年代の日本は水俣の有機水銀汚染、四日市の大気汚染など多数の死者がでる重大な公害が相次いで起こった。近代化に伴うあらゆる公害が見られる「公害先進国」だったのである。当時の日本企業は高度経済成長に伴い、設備投資は年率20%増以上と拡張に拡張…
ベックは現代社会の分析に有用な様々な概念を提示したが、そのうちの一つがサブ政治という概念である(1)。近代社会において経済や科学技術が民主的統制の範囲外となり、政治が科学技術やグローバル経済にかかわる諸セクターが生み出すリスクをコントロー…
大きな組織には一種の慣性(現在の運動状態を続けようとする性質)がある。慣性はとりわけ巨大な官僚組織、つまり国や都道府県といった行政組織において著しい。科学技術政策もその例外ではない。というよりも、長期にわたる投資や安定した制度が必要である…
丸山真男は「軍国支配者の精神形態」の中で、極東軍事裁判における軍幹部、官僚、政治家の証言を分析し、指導者たちが、それぞれのセクターの利害を背景としながら、妥協とあいまいな集団的意思決定を行い、誰一人として責任意識を持たないまま、流れに飲ま…
ここでは、原子力を例に科学技術と社会の関係を不健全なものにしている先送りの論理と技術楽観論について述べてみたい。 この節を執筆する少し前に原子力規制委員会が青森県六ヵ所村の再処理工場の安全審査を終了し、この夏(2020年)にも認可する方針であるこ…
スローターは大学をめぐる研究環境の変化が大学教員の意識や大学内の権力構造に与えた影響を研究し、1980年代以降、外部資金獲得が大学及び大学教員を動かす主要な動因となってきたことを指摘し、「大学および大学教員の,外部資金を獲得しようとする市場努…
科学史研究者の古川安は科学の産業化について次のように述べている。 ―1920年ころから科学は急速に産業の「奴婢」になったというアメリカの経営史家ノーブルの指摘は誇張はあるものの、ポイントをついている。時期のずれこそあれ、こうした傾向はどの科学技…
近代細菌学の基礎を築いたことで知られるルイ・パスツールは「科学には国境はないが、科学者には祖国がある」と語ったという。この言葉は、戦争にまで至った当時のフランスとプロイセン(現ドイツ)の対立を反映している。彼は好戦的であったというわけでは…
日本が近代大学制度を導入した時、ヨーロッパでは、すでに自然哲学からの自然科学の専門分化が進行し、工学や農学も学問としての専門性を確立しはじめていた。日本の大学は基本的に、その当時のヨーロッパの学問の枠組みをそのまま日本に移植したものであっ…
マイケル・ファラデーは、電磁場の基礎理論を確立し、電動機技術の基礎を築いたイギリスの物理学者である。クリスマス・レクチャー「ろうそくの科学」でも知られている。アインシュタインやニュートンと並ぶ科学界の巨人であるが、世俗的名誉には関心がなく…
スチュワート・リチャーズは「科学・哲学・社会」の中で、高速核増殖炉が実現した未来を想定し、「巨大増殖炉計画はプルトニウムの頻繁な輸送を必要とするが、それは偶発的事故とテロリストの攻撃という当然の危険を伴うのである。そのために列車と原子炉用…